49. 木霊の楽園!北海道!樹木をみよう~(15)ヤチダモ① ノッポさん?

ヤチダモ黄葉2021年9月アイヌ文化
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木霊・・・こだま。樹木に宿る精霊。木の精。精霊は山中を敏捷に自在に駆け回るとされる。木霊は外見はごく普通の樹木であるが、切り倒そうとすると祟られるか神通力に似た不思議な力を有するとされる(ウィキペディァ)。

~(アイヌの人々は)かつて人間がとりまくすべてのものに、人間と同じような精神の働きを見、それをカムイと呼んで、人間とカムイの共存こそがこの世を豊かに暮らす道であると考えていた~(中川裕 千葉大学文学部教授「ゴールデンカムイ」アイヌ語監修者)

みなさん、こんにちは~。
ごきげんいかがですか~。
木彫り屋店長 まさまるです。


9月中旬を過ぎ、季節は秋へとゆっくりすすんでいます。
緊急事態宣言が9月いっぱいまでと延期されました。
阿寒湖では、アイヌシアターイコロ及び伝統・創造オンネチセは、休館延長となりました。
観光のお客様は、パラパラです。
人の流れは、抑えられています。

阿寒湖のメイン道路では、先日、日中、ゆうゆうと、堂々と、闊歩しているものが、現れました。

阿寒湖メイン道路を日中、余裕で闊歩するエゾシカさん


さて、今回は、ヤチダモをみていきたいと思います。

ハルニレ同様、阿寒湖畔ではよく目にする樹木です。


ヤチダモと聞くと、印象に残っているのは、自分の場合、(ヤチダモの)時期の遅い芽吹きとその芽吹く形・変化です。

まだ写真はありませんが、何と言うか、その形と変化のイメージは、そうですね~、こんな感じです。

人間の手のひらを上にして、グーにして、「こちらへどうぞ~」って感じで、ゆっくりと手のひらをグーからパーにしながらレストランなどでお客さんを案内する時の感じに似ています。この変化は、おもしろいなぁと思いました。

まぁ、人それぞれ感じ方が違うと思いますが。


また、ヤチダモとアイヌ文化との関わりも含めて簡単に紹介してみます。


みなさんに、時間ができた時、外に出ていただいて、樹木や花などの自然に触れ、散歩して、大空を見上げて、日頃のストレスを少しでも軽減していただければ、とてもうれしいです

それでは、『樹木愛』の心で、リラックスして、気軽にお読みくださいませ!よろしくお願いします!

目次

ヤチダモの基本情報


ヤチダモは、寿命が長く、巨木に成長します。落葉広葉樹。モクセイ科。トネリコ属。

高さ20~30m、太さ80~100cm


葉っぱのつき方は、対生。フチに細かいギザギザ。

羽状複葉(7~11枚で、長さ6~15cm、幅2~5cm)。雌雄異株(雄の木と雌の木があります)。


いやぁ~、本当に高く太くなりますね~。
近所のヤチダモの木は、やっぱり高いですね。


ヤチダモは、北海道の各地で、名木として扱われているものもあります。


・剣淵町  開拓記念木(推定樹齢なんと!650年!室町時代じゃないか!)


・網走市  美岬のヤチダモ


時間がとれたら、見に行きたいですね。

市町村の木として、指定しているのは、やはり剣淵町ですね。


先ほど、ヤチダモは、他の樹木より芽吹きの時期が遅いと書きましたが、逆に、葉っぱが散ってしまうのは、早いんです。

だから他の樹木よりも黄葉が早いのです。ハルニレなども黄葉して、散ってしまうのは早いのですけど、春の芽吹きは、ヤチダモよりハルニレのほうが全然早いですね。


自分は、ヤチダモの黄葉、好きだなぁ~!うすいキミドリ色がかった黄葉。真黄色ではない清々しい感じ。

9月下旬、見事なヤチダモの黄葉。阿寒湖畔。
秋、色とりどりに。阿寒湖畔。

ヤチダモの名前の由来


名前の由来については、いくつか説があるらしいです。今回は、代表的な説を。

タマ(霊)=タモの説
古来から樹霊信仰の対象になるのは、大きな木が多いです。ヤチダモは、ホント樹高が高くなります。見上げます。圧倒されます。太さは十分すぎるくらい。

高く太く、大きくなるということは、寿命(樹齢)が長いということですね。

以前紹介したカツラの木も樹齢が長く、森の精霊(森の神様)などと呼ばれていることがあります。やはりカツラも巨木が多いですね。

神木」ですね。樹霊信仰ですね。

ヤチダモの木は喬木(きょうぼく。高い木)で、かつ樹齢が長いことの理由から、樹霊信仰の対象になり、霊=森の精霊が宿る、という意味で、タモという名前がつけられたという説です。

実際、アイヌ文化の物語では、「ヤチダモの木の神は、感情もあれば、人間の言葉を聞き分ける能力をもっている」という話しがでてきます。

札幌大学の本田優子教授の研究では、人格植物神としてアイヌの物語に登場する回数は、ヤチダモは5回らしいです(ちなみにカツラは10回。一番多いハルニレで22回らしいです)。樹齢600年ですものね(剣淵町のヤチダモ)。そりゃぁ、宿りますよね、神が。


・もう1つの説は、タモの木の仲間は(トネリコ属)、その材質がとても粘りが強く、強く曲げても折れない、ということから
撓む木(たむき)」。

すなわち、タムキ→タモノキ→タモ、に変化していったという説です。

実際のタモノキの性質から、それを使用する人間生活の言葉の中で生まれた説ですね。


・人間の生活という観点からでは、他には、農業に関することがあります。

「タモ」は、稲を干すための稲架木(はさぎ)として水田の畦(あぜ)によく植えられ、「タモノキ」(田茂木)と称されたことによる説です。


ちなみに、ヤチダモの「ヤチ」は、谷地のことです。

湿地や沢沿いに生える性質をもっています。湿地に強い樹木の順番では、ハンノキが一番です。

ハンノキ→ヤチダモ→ハルニレ。ヤチダモは2番目くらいらしいですね。


また、雑学になりますが、ヤチダモは、軟式野球のバットに使用されています。やはり強いのですね。

野球のバットの例では、大雑把に次のような分け方があるようです。参考までに。


・硬式野球のバット ー アオダモ

・軟式野球、ソフトボールのバット ー ヤチダモ、ハリギリ(センノキ)

・少年野球、ノック用のバット ー ホオノキ

アイヌ文化とヤチダモ

アイヌ語では、ヤチダモは、ピンニと言われます。

先ほどヤチダモは、ホント樹高が高くなると書きましたが、アイヌ文化の物語の中では、次のエピソードがあります。


創世記の頃、国造りの神(モシリ・カラ・カムイ)らと国を造っていたシマフクロウ(コタン・コロ・カムイ)の神の主な役割は、疫病神や魔女などから人間(アイヌ)を守ることでした。その見張り役でした。

当初は、ハルニレの木の上にとまって、見張っていましたが、人間の世界が大きく開けてくると、ハルニレの木では、十分に見渡せなくなりました(実際のハルニレも高いですけどね)。

シマフクロウの神様は、しっかりと見張りをする必要から、より高く成長するヤチダモに移動して、そこから人間たちを見守り続けました。


それでは、背の高いヤチダモの写真をどうぞ!

ヤチダモ、阿寒湖畔(2021年)


アイヌの人々の生活では、多岐にわたってヤチダモは、使用されています。いくつか例をあげておきます。


仔熊を飼う檻(エペレチセ)

・高倉(倉庫・プ)

舟を漕ぐ櫂(かい)、棹(さお)

・丸木舟

・箕(み)穀物の脱穀、選別、調整、運搬に使用される農具

・薪(たきぎ)ヤチダモは、よく燃えるそうです

家造りの時、葺き(ふき)材を押さえる役目をもつ横木(サクマ)

家(チセ)の屋根の構造材、壁の横木、物干し竿

・川をせき止めるための材料


などなどたくさんあります。


ヤチダモの材質が、粘りがあって丈夫なので、建築材での使用が多いですね。


丸木舟を作るとき使用されたのは、地域よって違いがあるようです。一般的には、ヤチダモは重いので、舟としては、あまり喜ばれなかったそうです。

しかし、旭川地方の近文(ちかふみ)では、ヤチダモの木で舟を作ると豊漁に恵まれる、という話しがあります。丸木舟の材料と聞くとカツラハリギリ(センノキ)を思い浮かべてしまいますよね。たしかに、ヤチダモは、重たそうですね。


アイヌ文化の物語にもヤチダモの神様は登場しています。これに関しては、後日書きたいと思っています。

また、ヤチダモでは、イナウ(木幣)は、作られなかったようですね。何でかな?これは宿題ですね。

薬としてのヤチダモ

アイヌ文化では、樹木は、いろいろな薬にもなっています。

ヤチダモは、少ないのですが、次のような使われ方をしていたそうです。


・樹皮は、イレズミの傷を洗う薬として

・淋病(沸かして飲んだそうです)


以上、アイヌ文化でのヤチダモの役割を簡単にみてみました。

阿寒湖温泉から釧路に行く途中、たくさんのヤチダモがあります。葉っぱは、オニグルミに少し似ている気がしますが、芽吹きの頃は、ホント目立ちますね。道沿いは、そんなに大きなヤチダモはないような気がします。

阿寒湖畔には、大きなヤチダモが多いです。

見上げるたびに、すごいなぁ~と一人感心しています。

快晴の中で見るヤチダモは、爽快ですよ~!

これからは、もっとこまめに観察していきたいと思っています。芽吹きの時の写真をとりたいですね。

木彫りの材料としては、あまりたくさんは使用されていないような?(まったくないわけではありませんが)少ないですね。ヤチダモの材料の作品がありましたら、また紹介しますね!

そう言えば、埋もれ木(神代木)は、ハルニレやヤチダモ、ハリギリが多いです。

それでは、今回はこれでおしまいにします。

最後まで、お付き合いしていただきまして、本当にありがとうございました!

お元気で!

(参考資料)
・アイヌと自然シリーズ第3集 樹木編(財団法人アイヌ民族博物館)
・アイヌと自然シリーズ第4集 薬用編(財団法人アイヌ民族博物館)
・アイヌ文化・草と木樹 郷土学習シリーズ第9集(斜里町立知床博物館)
・コタン生物記 樹木・雑草編Ⅰ(更級源蔵、更級光 青土社)
・知りたい北海道の木100(佐藤孝夫 亜璃西社)
・新版北海道の樹(辻井達、梅沢俊、佐藤孝夫著 北海道大学図書刊行会)
・アイヌ植物誌(福岡イト子著、佐藤寿子挿画 草風館)
・森林で遊ぼうシリーズ1おもしろい木の話(北海道林業改良普及協会)
・木の名の由来(深津正、小林義雄著 東書選書)
・2018 北海道の巨樹・名木150選(今田秀樹著、協力公益社団法人北海道森と緑の会)

・アイヌ文化で読み解く「ゴールデンかムイ」(中川裕著 集英社新書)
・研究ノート アイヌ口承文芸にあらわれる植物および植物神について(本田優子 札幌大学教授)

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