木霊(こだま)・・・樹木に宿る精霊。精霊は山中を敏捷に自在に駆け回るとされる。木霊は外見はごく普通の樹木であるが、切り倒そうとすると祟られるか神通力に似た不思議な力を有するとされる。(ウィキペディァ)
~いずれにせよ、カムイとは動物や植物や火や水のことだと言ってしまうと、「自然」と訳してもよさそうな気もしますが、先ほど言ったように、家や舟、臼や杵、鍋や小刀といった人工物もまたカムイであり、人間のまわりにあって、人間が生きるために何らかの関わりを持っているすべてのものを指しますので、「自然」ではやはりぴったりきません。むしろ「環境」と言ってしまったほうがよさそうです。~
(アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」中川裕著 集英社新書)
みなさん、こんにちは~。
ごきげんいかがですか~。
木彫り屋店長 まさまるです。
自分が樹木観察に興味をもったのは、2020年度、2021年度、新型コロナウィルスによる行動制限やお店の時短要請などで少し時間ができ、(気晴らしに)近所を散歩をし始めてからでした。
散歩してみて気づいた事は、街路樹や遊歩道に林立している樹木の名前がまったくわからないことでした。ましては特性などは未知で、恥ずかしくなりました。なにせ自分は、木彫りの製造販売にたずさわっているのでなおさらです。木彫りの完成品ならばその木の種類はわかるのですが、自然界に生えている樹木はみな同じような景色として映っていました。幸いなことに阿寒湖は、自然に恵まれている土地でした。
先生になってくれる樹木はたくさんありました。少しずつですが、写真を撮っては、自宅に戻り、樹木図鑑とにらめっこしながら、” たぶんあそこに生えている樹木はこれだろう~”と目ぼしをつけて観察していきました。
観察して気づいた事は、当たり前のことですが、四季を通じてその樹木を見るのが一番だということでした。樹皮や葉っぱ、花。そして冬芽や春の芽吹き。樹皮と葉っぱだけではわからなかった樹木が、花をつけたことにより、” やっぱこの木は、これだったんだぁ~”なんてわかったことが多々ありました。
わかった時の感動!
まだまだわからない樹木がたくさんありますが、『樹木愛』の心で、少しずつ学んでいきたいと思っております。
今回のミズキは、とても有名な樹木ですが、なかなかわからなかったですね。去年の秋頃からずっと、この木は何だろうと思っていた樹木が、この6月に花をつけました。図鑑を見たり、またインスタグラムで自分と同様に樹木観察している人々の投稿を参考にしながら、ようやく、この木がミズキだとわかりました。とてもうれしかったですね。インスタの投稿に感謝です。
それでは、その秋頃のミズキの紅葉写真です。
2021年6月にこの樹木が花をつけました(同じ場所の樹木)。その花の観察が決定打になり、ミズキとわかりました(インスタ投稿の写真の存在も大きかったです)。
では、そのミズキの花の写真をどうぞ!
ミズキと判明したときの喜びはひとしおでした。自己満足に浸りながら、次では、ミズキの基本情報、アイヌ文化との関わりなど順に簡単にふれていきたいと思っています。
前置きが長くなりましたが、それではみなさん、『樹木愛』の心で、よろしくお願いします!
目次
ミズキの基本情報
ミズキは、ミズキ科。高さ15~20m、太さ50~70cm。落葉広葉樹。
葉っぱは、ふちにギザギザはない。楕円形(長さ6~15cm、幅3~8cm)。
葉先は、急にとがる。柄の長さは2~5cm。葉のつき方は、互生。
花は、白色。6~7月に開花。花びらは4枚。
幹は、暗褐色で、はじめはなめらかで、のちに浅く縦に裂ける。
実は、9~10月に赤色から黒色に変わる。球形で6~7mm。
ミズキの木でよく言われるのが、その独特の樹形です。自分が最初に観察していたミズキは込み入ったところに生えていたので樹形を確認できませんでした。ミズキの樹形は、「枝を横へ張り出す樹形」だそうです。
最近、違う場所(阿寒湖内)でもミズキを見つけ、その樹形を見てみました。次の写真です。
ホントに枝が横に張り出していますね。階段状で、こうやって見ると独特な樹形ですね。
この横に枝が張り出している樹形で、恩恵?を受けている動物がいるらしいです。
それは、熊です。
初夏になると、山ではブヨや蚊が容赦なく熊に襲い掛かります。熊は、参った参ったなぁ~と言うか言わないか、ミズキの木に登り、虫から避難します。もちろん、避難先のミズキがある程度の太さがなければいけませんが。
ミズキと熊の話しになったのでついでに、ミズキ(の枝)は「熊の腰掛け」、「熊のハンモック」などと呼ばれているそうです。熊の避難所として利用されるだけではなく、秋のミズキの実、黒く熟した果実を熊は食べるそうです。その食べ方が、本当かどうかわかりませんが、ハンモックに仰向けに寝転がるように、枝に寝転んで上の枝についた果実をムシャムシャと。熊の愛らしい姿ですね。熊のプーさんのようですね!
ミズキの枝の特徴は、特に冬の細い枝は、赤くなり縁起の良い木とされています。お正月に「繭玉(まゆだま)」や団子を飾る木に使用されます。マユダマノキ、ダンゴノキ(団子の木)とも呼ばれ、お正月に繭玉や団子を刺して神棚に飾られるそうです。
そう言えば、お正月飾りで見たことありますね。あまり意識していなかったですけど(汗)。
ミズキの材の利用は、この木がきめ細かで加工しやすいことから漆器や下駄、こけしなどの製造に利用されているそうです。北海道の民芸品では、ミズキで作られた作品はあまり見たことも聞いたこともありません。これから注意して見ていきたいですね。
ミズキの名前の由来では、次のような説明がありました。
春の芽吹き前に枝や幹を伐ると、多量の水がしたたり出ることによる。また、黄色い花をつけるところから、豊年満作を意味する「満木(みたすき)」が転じた説。
やはり水に関係があるのですね、ミズキですから。
ちなみに北海道では、ミズキの仲間として、サンゴミズキ(シベリアミズキ)、サンシュユ、ヤマボウシ、アメリカヤマボウシ(ハナミズキ)があるそうです。
それではこの章の最後にミズキの葉っぱの写真です。
ミズキとアイヌ文化
アイヌ語では、ミズキはウトゥカンニ(イナウニニ・木幣の木)と呼ばれます。
アイヌ文化では、ミズキは木幣(イナウ)に使用されることで有名です。一般的には、ナガバヤナギなどが使用されます。ミズキの場合は、主に熊の霊送り(イオマンテ)の時に用いられ、普通の時は使用しないそうです。そういうことからミズキを大切にするのは、熊狩りを主に生業にする地方、例えば「阿寒地方」などです。
「ミズキの木幣(イナウ)がほしかったら、私のところにおいで」
神である野獣や野鳥たちは、人間が作ってくれた木幣(イナウ)をもらうことによって、神としての資格が確固たるものになるそうです。
ミズキで作られたイナウは、カムイモシリ(神の世界)で、銀になるといわれています。高級ですね。送られた熊にとっては、これ以上ない贈り物だそうです。ミズキのイナウを贈られた神は大喜びで感激して、あらん限りの力で、贈った人間を守護するそうです。ありがたいですね!
アイヌの神話でも、ミズキ(ウトゥカンニ)で作ったイナウを神様に捧げると神様の力が何倍にもなって、アイヌのために役に立つと信じられているそうです。
・金になるといわれている木幣・・・カラフトキハダ
・銀になるといわれている木幣・・・ミズキ
・銅になるといわれている木幣・・・ハンノキ
これは地域によって順番が異なったりします。先ほども書いたように普通はナガバヤナギが使用されます。
基本的にはイナウは男性が作ります。イナウは儀礼に欠かすことのできない祭具です。イナウを削れない男は、一人前とみなされない無能な男、とされてしまうほどイナウは大切なものでした。またそれ自体が神になったりするそうです。
旭川の近文で、冬におこなわれるイオマンテでは、次の12神が祭られ、ヌサ(祭壇)には12本のイナウが置かれるそうです。
・コタンコロカムイ 集落を司る神
・シランパカムイ 大地の神
・ホロケウカムイ 武勇の神
・シトウンペカムイ 運を授ける神
・キムンカムイ 山の神
・イソアニカムイ 猟の神
・クッコロカムイ 涯路の神
・ヌサコロカムイ 神事を受け持つ神
・チャッチャクカムイ 幸運の神
・ウパシチロンヌプカムイ 危難救いの神
・カッケウカムイ 水猟の神
・ワッカウシカムイ 水の神
少し難しい漢字(意味)がありますが、それぞれの神にイナウを捧げて、感謝と守護神になっていただけるように祭事をおこなっていたそうです。
また、ミズキの木で作られた棒で、鮭の頭を叩く道具(イサパキクニ)を作っていました。ミズキの棒で叩かれた鮭は喜んで神の世界に行ったそうです。
薬としてのミズキ
化膿止めとして。
怪我をした時には、ミズキの皮を小刀(マキリ)で削り、それを布に包んで割り木の先に挟んでから、それを火にあぶって傷口に当て、包帯をしておくとその怪我は化膿せず治るそうです。
アイヌ文化の知恵の中で、樹木を利用してシンプルに薬を作ることに関して、いつも感心させられます。風邪を引いたらすぐ風邪薬、おなかが痛くなったら胃腸薬をすぐ飲める現代社会は、確かに便利ですごいと思いますが、こういったアイヌ文化の自然を生かした知恵も素晴らしいなぁ~と思います。
以上、今回はミズキの木に関してでした。また、ミズキに関しておもしろい事などがありましたらどんどん紹介していきたいと思っています。
それではみなさん、最後までお付き合いしていただきまして本当にありがとうございました!これからも『樹木愛』、『木彫り愛』の心でよろしくお願いします。お元気で!
(参考資料)
・アイヌと自然シリーズ第3集 アイヌと植物 樹木編(財団法人アイヌ民族博物館)
・アイヌと自然シリーズ第4集 アイヌと植物 薬用編(財団法人アイヌ民族博物館)
・アイヌ文化 草と木樹 郷土学習シリーズ第9集(斜里町立知床博物館)
・コタン生物記 樹木・雑草編Ⅰ(更科源蔵、更級光 青土社)
・アイヌ植物誌(福岡イト子著、佐藤寿子挿画 草風館)
・知りたい北海道の木100(佐藤孝夫 亜璃西社)
・木の名の由来(深津正、小林義雄著 東書選書)
・アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」(中川裕著 集英社新書)
・アイヌと神々の物語(萱野茂著 ヤマケイ文庫)
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