・「北海道のお土産で定番・木彫りの熊ってあるけど、どれを選べばいいのかわからなーい」
・「木彫りの熊ってどれも同じようにみえる~、やっぱ大きいほうがいいのかなぁ?」
・「(笑いながら)うちの家にもある~。昔、おじいちゃんが買ってきたんだってー」
・「うちの家の木彫りの熊、え~こんなに(値段が)高かったの~。大事にしなきゃ!」
「木彫りの熊」を見たときの反応はさまざまです。
そこがとてもおもしろいですね。
今回、この記事を読むと(計10回かに分けて解説していく予定です)、
木彫りの熊の見方が30%くらいわかります。
熊は奥が深いなー(個人的感想)。
はじめまして。
私は、北海道阿寒湖畔で60年以上続いている民芸店の店長です。
店長歴26年です。
木彫りの作品やさまざまな民芸品を通して、たくさんの方々と交流させていただいております。
本当にありがとうございます。
今回は、あくまで個人的見解です(この作品は良いとか悪いとか、では決してありません)。
彫りの違いを少しずつ指摘しながら、10回に分けて「木彫りの熊の見方」を述べていきたいと思います。
また、今回とりあげる「木彫りの熊」は、主に“旭川熊”と”奈井江熊(堀井熊)”です。
「木彫りの熊」は、大きく分けて次の3系統になります。
・八雲熊
・旭川熊
・奈井江熊(堀井熊)
八雲熊については、また後日解説したいと思っております(竹沢美千子著 「木霊の再生」(もくれいのさいせい)。とても素晴らしい本です。木彫りの熊に興味のある方はぜひ読んでみてくださいね)。
参考に少しだけ。「木霊の再生」(竹沢美千子著)によると、八雲熊と旭川熊の違いは、次のように書かれています。いささか長くなりますが本文を引用してみます。
~八雲と旭川の熊の違いを名工から直接伺った。
まず「飼い熊と野生の熊」と、モデルが違う。八雲では檻に入ったのんびり熊、旭川では人間を威嚇する野生の熊。おのずと姿勢、重心が異なる。
雪穴から燻り出され対決姿勢になると、熊は埋まり塊のように低く縮こまり、顔を大きく強調する。だから旭川の熊は重心が低い。北海道らしい土産としては、自然に生きる旭川熊に軍配が上がったということだろう。
もう1つの大きな違いは「流し彫りと玉彫り」の毛彫りの技術である。流し彫りは毛足が長く、玉彫りは短く毛並みを盛り上げ波打たせる。後者は梅太郎が肉感的な迫力を出すために開発した技法である。~(「木霊の再生」より)
この登場している名工は旭川の有名な作家平塚賢智さん。そしてその師の松井梅太郎さん。
なかなか示唆に富む話ですね!
それでは、さっそく見ていきましょう!
みなさん、ぜひとも、『木彫り愛』の心で、リラックスして、楽しみながら、読んでみてくださいね!
目次
木彫りの熊の種類
「木彫りの熊って、鮭食べてるヤツでしょう~」
でも実際、北海道の民芸店に入ってみると、
「へぇ~、(木彫りの熊にも)いろいろな形があるんだね~」
と驚かれます。
木彫りの熊の形は、だいだい10種類くらいです。
細かく言えばきりがないのですが、「木彫りの熊」は10種類覚えれば十分です。
1.鮭喰い熊(一番有名な熊。熊が鮭をくわえているヤツ、四つん這い)
2.吠え熊(口をあけてガォ~、四つん這い)
3.鮭持ち吠え熊(鮭を抱えてガォ~、四つん這い、3本足バランスが多い)
4.いかり熊(口を大きく開けて片手を上げて威嚇している。四つん這いではなく、3本足バランス)
5.口とじ熊(口を閉じて四つん這い)
6.親子熊(子熊をくわえて移動している様子、四つん這い)
7.鮭背負い熊(鮭を背負っている、鮭を担いでいる)
8.座り熊(座っている熊)
9.立ち熊(立っている熊)
10.木登り・岩登り熊(いろいろ形で登っている)
11.その他
今回とりあげるのは、一番有名な「1.鮭喰い熊です」。
木の種類(材料の種類)と仕上げ
「木彫りの熊」の色は、1色ではありません。
「黒い熊もいるし、白い熊も、茶色のも。灰色もあれば、赤いのまである。なんだこれは~?」と思われる方も多いです。
それは、「木の種類(材料の種類)」や色を塗ったり、焼いたりする「仕上げ」の違いによるものです。
木彫りの熊の材料は、だいたい5種類です。
1.シナノキ
2.エンジュ
3.クルミ
4.センノキ
5.埋もれ木(うもれぎ)、神代(じんだい)と呼ばれることもある
その他、一位(いちい。方言でオンコ)など
木彫りの熊で使用される材料の半分以上は、シナノキです。(それぞれの材料についてはまた改めてまとめたいと考えております)
大切なことの1つは、材料によって、見方が違います。
今回は、一番使用されているシナノキに絞りたいと思います。
(材料が)シナノキで彫られた鮭喰い熊の見方
鮭喰い熊は、まず鮭を見よ!(鮭をくわえた四つん這いの熊の場合)
まず、この鮭に注目してください。
まっすぐに伸びきっています。
次に鮭のエラやヒレを見てください。
線で表現されています。
次の熊をご覧ください(熊B)
やっぱり鮭に注目してみてください。
こちらは、鮭の尾っぽがくるんと跳ねてます。
エラやヒレが浮き彫りになっています(線ではない)。
熊(A)と(B)の鮭を角度をかえてアップで見てみましょう。注目は「鮭」。
くどいようですが、鮭を見てください。鮭に、注目~!
鮭の彫り方がずいぶん違いますね。
このように見ると、鮭の彫りの手間ひまのかけ方・その技術の違いが価格にあらわれてきます。
もちろん、その鮭の彫り方だけがすべてではないのですが、一番わかりやすい見分け方です。
いくつか(例)を載せておきます。再度、鮭に注目してみてください。
こちらの作品の鮭は、熊に直に彫られています。(熊と鮭の間に空間がありません)
こちらの作品の鮭は、エラやヒレは線で表現していますが、鮭がひねっており、躍動感があります。
こちらの鮭も跳ねていて躍動感が伝わってきます。またエラ、ヒレは浮き彫りになっています。
こちらの鮭喰い熊の鮭は、エラ、ヒレが線で表現されていて、鮭の尾っぽが熊にくっついています。
鮭喰い熊(四つん這いタイプ)は、主役はもちろん熊だけど、鮭の彫り方もしっかり見てみましょう。鮭の彫り方で価格が変わる場合が多いです(あくまで鮭をくわえた四つん這いのシンプルな熊の見方です)。
以上、簡単に解説してきました。
鮭をくわえてる熊は、まず「鮭を見てみましょう」!
今回の解説は、「どちらが良い悪い、価値がある、価値がない」というのでは決してありません。
もちろん人それぞれ好みがありますから、ぜひとも、゛『木彫り愛』”、をもって自由に選んでいただければうれしいです。その時の1つの参考としてご覧になってくださいね。
では、次回はまた、「木彫りの熊」を角度をかえてみていきたいと思っています。
最後まで、お付き合いいただきまして、ありがとうございました!
それではまた、ごきげんよう!
・木彫りの熊(13)~シナノキ(白木)
・木霊の楽園!北海道!樹木をみよう~(16)シナノキ(アカジナ)
「”木彫りの熊”好き」の方には読んでほしい~価格の違いがわかる!「木彫りの熊」の見方
基本編2 後ろ側の彫り方(肩やおしり)
基本編3 塗装などの仕上げ方について
基本編4 彫り方いろいろ
基本編5 エンジュ材・埋もれ木(神代木)の熊
基本編6 イチイ材・センノキ・クルミの熊
基本編7 覚えておきたい熊の形10種類 前半(1~5)
基本編8 覚えておきたい熊の形10種類 後半(6~10)形が複雑に
基本編9 表情熊について
基本編10 形のユニークな熊
コメント
昨日、メルカリで木彫りの熊を購入し、先ほど自宅に届きました。
あまりに種類が多くて迷いましたが、最後は熊そのものより鮭の雰囲気で選びました。
作品の木の種類がよく分からないのと、熊の足裏に作家のサインが無いので、このタイプの熊はアイヌの木彫り師によらないものなのかな?
ご連絡ありがとうございます。また、ブログをお読みいただいて感謝しています。
熊の選び方は基本的に最後はお客様の感覚や直感でいいと思います。「鮭の雰囲気」で選ばれたとのこと、とても大事な感性だと思います。自分はそういう選び方はとても好感出来ます。
作品の木の種類に関しては、着色してあったり、焼いている作品であれば、8~9割シナノキです。着色していなくて白色であれば、シナノキかセンノキです。着色してなくて黄土色~茶色でしたら、エンジュの木の可能性が高いです。着色していなくて赤茶、オレンジでしたらイチイの木です。着色してなくて灰色っぽい色でしたら神代木(埋もれ木)です。その他にもクルミやクリなどがあります。
木彫りの熊は6~7割シナノキで彫られています。鮭をくわえた熊の場合はシナノキが多いような気がします。
作家に関してですが、熊の製造のピークだった30年くらい前は職人さんがたくさんいて、良くも悪くも彫った熊の7割くらいは無銘(名前の彫らない)の作品でした。私が作家さんに名前を彫ってほしいとお願いしたら、「あんたが彫っといて」なんて言われたこともありました。名前がわかれば本当はうれしいことですが、当時は作家さん職人さんたちは1つでも多く熊を彫り上げるために、寸分の時間の惜しんだのでしょうね。こればかりは仕方なかったんだなぁ当時を振り返って思っています。超有名な芸術家の作品以外は、木彫りの熊の場合は「彫りや表現力」で価格などが決まります。
もし写真を送っていただけたらわかる範囲で調べてみます。当ブログでもいいですし、masamaru45@gmail.com の方でもご連絡くださいませ。写真はリサイズであればうれしいです。よろしくお願いします。
お問い合わせありがとうございました。
また何かございましたらご連絡くださいませ。
追記
アイヌの作家かどうかに関してですが、これもやはり彫りや表現を見てみなければわかりません。彫りや表現を見てもわからない場合もたくさんあると思います。当時は職人さんがたくさんいましたのでこの人だぁ!という特定は簡単ではないと思います。自分の知っている木彫りの熊と比較したり先輩方のお話しを伺うのがよろしいのかなぁなんて思っています。
木彫熊の世界について、わかりやすく紹介して頂きありがとうございます。このサイトで見た内容は本当にバラエティに富んでいて、参考になりました。先日、1964年の阿寒湖で作成された鮭背負熊を入手し、この丸く太った鮭は藤戸滝光氏かなーと思ってみたりしています。
荒木様、コメントありがとうございます。うれしいです。励みになります。
昔の作家さんは(自分の)作品に名前を入れる方が圧倒的に少なかったので、その熊を誰が彫ったのか、に関して今になって照らし合わせるのに苦労していたりしています。それも含めて魅力のある木彫りの熊の世界が楽しいのですけどね(笑)。そんなこんなで、いろいろ想像をめぐらすのが、お宝発見!のようにワクワクものですね。でも基本的には、(熊の顔や形は)自分の好み優先でいいと思います。
超有名な藤戸竹喜さんですら、俺は職人だから(格好つけてる芸術家ではないから)、という理由で初期の頃は名入れをしていなかったそうですね。
ありがとうございます。
まさまる
『木彫りの熊の見方』シリーズ、とても面白いです。木彫りって、奥が深いんですね〜。最終的にはこれが好き!とか感覚で楽しむものだと思いますが、知識がつくと見方も変わって楽しみ方のバリエーションが増えますね。鮭をくわえてる熊は、まず「鮭を見てみる!」この発想はありませんでした(笑)確かにヒレの表現の違い一つでも全体の印象が全く違う!
丁寧に愛情を持って解説される姿勢にも感銘を受けました。素敵な記事をありがとうございます!
ももんが様
「民芸の青山」木彫り屋店長まさまるです。コメントありがとうございます。
最近ブログを更新しておりませんがこれからまた熊やフクロウなどのこれまでの作家さんの作品を紹介していきますので、よろしくお願いいたします。あたたかいコメント励みになります。ありがとうございます。
まさまる