21. アイヌ文化とオニグルミ

アイヌ文化

木霊・・・こだま。樹木に宿る精霊。木の精。精霊は山中を敏捷に自在に駆け回るとされる。木霊は外見はごく普通の樹木であるが、切り倒そうとすると祟られるか神通力に似た不思議な力を有するとされる(ウィキペディア)。

~(アイヌの人々は)かつて人間がとりまくすべてのものに、人間と同じような精神の働きを見、それをカムイと呼んで、人間とカムイの共存こそがこの世を豊かに暮らす道であると考えていた~(中川裕 千葉大学文学部教授「ゴールデンカムイ」アイヌ語監修者)。

みなさん、こんにちは~。
ごきげんいかがですか~。
木彫り屋店長 まさまるです。

先日、15cmを超える雪が降りました(もう4月なのに。まぁ阿寒湖は5月になってもまだまだ雪は降りますね)。でも翌日には12度くらいまで気温が上がり、雪は一気に解け、あたりは水浸しになっています。阿寒湖の「遊歩道」を歩かれる方は、登山靴や滑り止めのついた冬靴がいいですよ~。
ほんとコロコロこの時期の天気は変わりますね。

今回は、「アイヌ文化とオニグルミ」ということでみていきます。
ここで紹介する内容は、アイヌ文化(樹木とのかかわり)に少し興味がある人やオニグルミをちょっと知りたい人向けに、導入部として簡単に書かれています。
本格的に調べたい方は、参考程度にお読みになり、資料がたくさんでてますので、個々で調べてみてくださいね。

このシリーズでは、みなさんに、少しでも外に出ていただいて、自然の樹木や植物を見てふれ合い、大空を見上げて、散歩して、ストレスなどを軽減していただければ、という目的で書かれています。

ぜひとも、『樹木愛』の心で、リラックスして楽しんでいきましょう!

それでは、よろしくお願いします。

まずは、秋のオニグルミの写真をどうぞ!

湖岸園地(阿寒湖第一遊覧船乗り場)

秋のオニグルミ。
クルミの実がなっています。
葉っぱは、羽状複葉ですね。

目次

アイヌの人々の生活の中で


}・・・オニグルミの実は、なんといっても食料になります。アイヌの人々の生活では、とくに冬の大切な食糧源の1つになりました。

果実は、秋に多量に摂取して蓄えておきます。
冬になってからそれを炉であぶり、「核」が自然に口を開くのをまって、刃物でこじ開けて中にある「」を食べていました。


あるいは、地面に落ちたクルミを集め、水につけるか、土の中に埋めて皮を腐らせた後、きれいに洗って、十分に乾燥させた後、乾煎りしたりして、同じように口が開いたら、隙間に刃物を入れてこじ開けて食べていました。

果実は、鬼の面のようにごつごつして、殻もホント固いですよね。

オニグルミは、アイヌ語で「ネシコ」、「ニヌムニ」といいます。
クルミの実は、「ニヌム イペ」。

このクルミの実を、焦がさないように、鍋で煎ったり摺ったりしてから、砂糖を入れて、「アイヌの餅」(アンコロ シト)につけて食べるとおいしかった、という話しもあります。
今でもクルミ餅はおいしいですよね(作り方は違うと思いますけど)。

}・・・オニグルミの樹皮は繊維を黒く(あるいは濃紺)染めるときの染料に使用されました。

幌別では、麻や楡皮の繊維を黒く染めるには、オニグルミの樹皮を煎じて得た黒色の汁に2,3日浸した後に、鉄分の多い沼の水の中に漬けておいたようです。

また、屈斜路湖半では、ノリウツギ(サビタ)で作られたパイプを(クルミの繊維で)黒く染めた話しもあります。

(黒く(濃紺)染める・・オニグルミ、赤く染める・・イチイ・ケヤマハンノキ)


そのほかには、狼の神のイナウ(木幣)をオニグルミで作ったという話しもあります。

イナウ(木幣)に関しては、詳しくはまたいつかとりあげたいと思っています。
簡単にいうと、アイヌの人々と神々(カムイ)をつなぐものです。

では、どんな木でイナウ(木幣)を作っていたか?簡単に紹介しておきます。

アイヌの人々はさまざまな木でイナウを作っていますが、一番良い木は、「キハダといわれています。天上の神の国に行ったとき、”金”になるといわれています。
“銀”は、「ミズキ」で、”銅”は、「ハンノキ」。普通は、「ヤナギ」。

・家の神を祭るイナウ・・・エンジュ
・狼の神、馬の神・・・オニグルミ
・シャチの神・・・ケヤマハンノキ

など(これは、地方によって違いがあるかもしれません)。

オニグルミの神話~アイヌ神謡集(知里幸恵訳)から


オニグルミの木は、「ユグロン」という物質を出して、他の植物を近くで繁殖させない性質をもっています。確かにオニグルミがある所には、オニグルミがかたまって(群生)あるような。

またオニグルミはその生存戦略に使用されるユグロンという物質だけではなく、川の魚を一時?麻痺させるような毒をも持っているようです。その毒の成分の詳しい事はわからないのですが、「毒流し漁法」といわれ、(オニグルミの)樹皮と殻の皮を砕いて川に流し、毒で弱った鮭を獲ることもあったらしいです。
この行為は、悪い神が行うことで、アイヌの人々は、川を汚す行為はいっさいしませんでした。

これに関して、「アイヌ神歌集」(知里幸恵訳)の”小オキキリムイが自ら歌った謡「この砂赤い赤い」”で、似たような物語があります。少し長くなりますが、引用してみます。


ある日に流れをさかのぼって遊びに/出かけたら、悪魔の子に出会った。/いつでも悪魔の子は様子が美しい/顔が美しい。黒い衣を着けて/胡桃(くるみ)の小弓に胡桃の小矢を持っていて/私を見ると、ニコニコして/いうことには、/「小オキキリムイ、遊ぼう。/さあこれから、魚の根を絶やして見せよう。」/と言って、胡桃の小弓に胡桃の小矢を/番え(つがえ)水源の方へ矢を射放すと、/水源から胡桃の水、濁った水が/流れ出し、鮭どもが上って来ると/胡桃の水が厭なので泣きながら/引き返して流れて行く。悪魔の子は/それをニコニコしている。/私はそれを見て腹が立ったので/私の持っていた、銀の小弓に銀の小矢を/番え水源へ矢を射はなすと/水源から銀の水、清い水が/流れ出し、泣きながら流れて行った。/鮭どもは清い水に元気を恢復し/大笑いをして遊びさわいで/パチャパチャ川を上っていった。/すると、悪魔の子は、持前の癇癪(かんしゃく)を/顔に表して、/「本当にお前そんな事をするなら、鹿の根を/絶やして見せよう。」と云って、/胡桃の小弓に小矢を番え/大空を射ると、山の木原から/胡桃の風、つむじ風が吹いて来て/山の木原から、牡鹿の群は別に/牝鹿の群はまた別に、風に吹き上げられ/ずーっと天空へきれいにならんで上って行く。/悪魔の子はニコニコしている。/それを見た私はかっと癪にさわったので/銀の小弓に銀の小矢を/番えて、鹿の群のあとへ矢を射放すと、/天上から、銀の風、清い風が/吹き降り、牡鹿の群は/別に、牝鹿の群はまた別に、/山の木原の上へ吹き下された。/すると、悪魔の子は/持前の癇癪を顔に現し、/「生意気な、本当に/お前そんな事をするなら、力競べをやろう。」/と云いながら上衣を脱いだ。/私も薄衣一枚になって/組み付いた。彼も私に組み付いた。それからは/互いに下にしたり上にしあったり相撲をとったが、/大へんに悪魔の子が力のあることには/驚いた。けれども、とうとう、ある時間に、/私は腰の力、からだの力を/みんな出して、悪魔の子を/肩の上まで引っ担ぎ、/山の岩の上へ彼を打ちつけた音が/がんと響いた。殺してしまって地獄へ/踏み落としたあとはしんと静まり返った。/それが済んで、私は流れに沿って帰って来ると、/川の中では鮭どもが笑う声/遊ぶ声がかまびすしくのぼって来るのが/パチャパチャきこえる。/山の木原では、/牡鹿ども、牝鹿どもが笑う声/遊ぶ声がそこら一ぱいになって/そこにここに物を/食べている。私はそれを見て/安心をし、私の家へ/帰って来た。/と、小さいオキキリムイが物語った。


オニグルミには良くも悪くもすごい力があったのですね。いやぁ~知らなかった(驚)。

その他の物語でも、クルミの木が登場します。残念ながら自分が知っている話しでは、クルミはいい事言われていませんでした(涙)。少しだけ引用してみます。

~浜から来たカラスがいうには「神の所では何も心配なことはないのですが、ここに泊まっている村おさが留守の間に妻が死ぬことになっていて、それだけが心配なのです。というのも、ここにいる村おさの家の東側にネシコ(クルミ)と、キキンニ(エゾノウワミズザクラ)という2本の木が生えています。そのうちのネシコが村おさの妻にほれて、なんとか殺してその魂を取って神の国へ連れていき、結婚しようと思っていたのです。それでネシコは根を延ばしていって、村おさの妻の寝床の下まで行き、今夜にも腹痛を起こさせて殺すことになっていて、そのことがアイヌの所での心配の種なのです」~

~「一言つけ加えるが、木のうちでも精神がよくないのが、クルミとエゾノウワミズザクラなのに、それを知らずに家の近くへ植えてあった。これからは、この2種類の木を家の近くへ植えないようにしなさい」~

クルミの木は道具などを作る時や食糧においては重宝されるのに・・・。精神の悪い木とは・・・とほほ(涙)。まぁその物語においてはそのように語られていました。

実際クルミの果実については、「イオマンテ」(熊の魂を天上に送る祭り)の祭事の時に、”クルミまき(ニヌム チャリ)”が行われたといいます。これは良い話かな!?

その理由は、2つ。


1つは、魔人を近づけないため。

2つめは、天に送られた魂(この場合は熊の魂)に、冬の寒い時期にも「人間の世界には木の実(食べ物)がたくさんあるんだよー」ということを天上の神(熊の魂)に見せて、また地上(人間界)に降りてくることを願うため。(熊は、アイヌの人々にとって、食糧(肉)や毛皮、薬にもなり、大切なものでした)

オニグルミの木の特徴


樹形}・・・盃をさかさにしたような形。

葉っぱ}・・・9~21枚の小葉が集まり(羽状複葉)、大きな葉となる。

果実}・・・核果(かくか)または石果(せきか)と呼ばれる黄緑色の果実は、長さ3~4cm。9~10月に熟す。

その他}・・・ユグロンなる物質を出し、他の植物を寄せ付けない。
「クルミ」は、南富良野町の木に指定されています。

オニグルミの葉っぱ

太陽の日差しを浴びるオニグルミを葉
大き目の羽状複葉

以上、「アイヌ文化とオニグルミ」をみてきました。

オニグルミの「冬芽」も紹介したかったのですが、なかなかピントが合わなくて、残念でした。みなさんも、ぜひ、お気に入りの樹木をありましたら、春夏秋冬、季節ごと写真撮影してみてください。同じものでも、いろいろな顔・表情がでますよ。

それでは、みなさん、『樹木愛』、『木彫り愛』の心でこれからもよろしくお願いします。

最後までお付き合いしていただきまして、ありがとうございました!

お元気で!

(参考資料)
・アイヌと自然シリーズ第3集 アイヌと植物 樹木編(財団法人アイヌ民族博物館)
・コタン生物記 樹木・雑草編Ⅰ(更科源蔵、更級光 青土社)
・知りたい北海道の木100(佐藤孝夫 亜璃西社)
・アイヌ植物誌(福岡イト子著、佐藤寿子挿画 草風館)
アイヌの世界観(山田孝子 講談社)
・アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」(中川裕著 集英社新書)

・アイヌと神々の物語(萱野茂著 山と渓谷社)

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